TOPへTOPへ

コラム

Q&A パフォーマンス不安(あがり症)とは?よくある質問にお答えします

はじめに

「人前で話すときだけ極度に緊張してしまう」「プレゼンテーションや発表のときに限って不安が強くなる」――このような経験をお持ちの方は少なくありません。日常的な会話では問題ないのに、パフォーマンスが求められる場面でのみ強い不安を感じる場合、それは「パフォーマンス不安」かもしれません。

パフォーマンス不安(performance anxiety)は、いわゆるあがり症のようなものと考えていただければいいと思います。医学的にはパフォーマンス限局型社交不安症と呼ばれます。

この記事では、パフォーマンス不安について、よくある質問に答える形で分かりやすく解説します。

Q1. パフォーマンス不安とは何ですか?

A. パフォーマンス不安は、人前でのスピーチ、演奏、演技、プレゼンテーションなど、パフォーマンスが求められる状況に対してのみ著しい不安や恐怖を感じる状態を指します。

重要なのは、日常的な社交場面(友人との会話、食事、パーティーへの参加など)では不安を感じないという点です。医学的にはパフォーマンス限局型社交不安症と呼び、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では、「その恐怖が公衆の面前で話したり動作したりすることに限定されている場合」と定義されています。

Q2. 一般的な社交不安症とはどう違うのですか?

A. 最も大きな違いは、恐怖を感じる場面の範囲です。

全般型の社交不安症では、会話、食事、パーティー、人との出会いなど多様な社交場面で不安を感じます。一方、パフォーマンス不安では、人前での発表や演技など特定のパフォーマンス状況に限定されます。

パフォーマンス不安の方が発症年齢が遅く(全般型:約10歳、パフォーマンス不安:約17歳)、症状も比較的軽度であることが報告されています。

Q3. 「ただのあがり症」とは違うのですか?

A. 多くの人が人前で緊張を経験しますが、パフォーマンス不安の場合は、以下の点で異なります:

  • 不安の程度が状況に対して明らかに過剰である
  • 回避行動により社会的・職業的に支障が出ている
  • 本人が著しい苦痛を感じている
  • 症状が6ヶ月以上持続している

これらの特徴がある場合、単なる性格や「あがり症」ではなく、治療可能な医学的状態である可能性があります。

Q4. どのような症状が現れますか?

A. パフォーマンスの場面で、以下のような症状が現れます。

身体症状: 動悸、発汗、震え(手や声)、赤面、息苦しさ、めまい、吐き気など

心理的症状: 「失敗したらどうしよう」という強い不安、「恥をかくのではないか」という恐怖、集中力の低下、頭が真っ白になる感覚など

重要なのは、同じ活動を一人で行う場合には不安が生じないという点です。

Q5. どのくらいの人が経験していますか?

A. パフォーマンス不安の有病率(ある時点での患者の割合)は、0.8〜20%程度と報告されています。社交不安症全体(パフォーマンス不安を含む)の生涯有病率は約5〜13%と推定されており、決して珍しい疾患ではありません。

日本では、人前で話すことへの不安は文化的に許容される傾向があるため、「あがり症」として性格の問題と捉えられ、医療機関を受診しない方も多いと考えられます。

Q6. 何が原因で発症するのですか?

A. 多くの精神疾患と同様に、単一の原因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

遺伝的要因(ただしパフォーマンス不安では遺伝的素因が弱いとされる)、気質的要因(怖がりの性格、行動抑制)、環境的要因(幼少期のいじめや恥ずかしい経験など)などが関与している可能性があります。

全般型の社交不安症と比較すると、パフォーマンス不安では家族歴が弱い傾向があります。

Q7. なぜ医療機関を受診しない人が多いのですか?

A. 社交不安症は、発症しても医療機関を受診しない方が非常に多い疾患です。生涯受診率はわずか4.0%程度と報告されています。

その理由として、以下が考えられます:

  • 発症年齢が若く(平均13歳)、「自分の性格」と捉えられやすい
  • 日本では「内気」「あがり症」として文化的に許容される
  • パフォーマンス場面を避ければ日常生活は送れるため、問題として認識されにくい
  • 他の精神疾患(うつ病など)が併発して初めて受診する場合が多い

実際、気分障害が併存した場合には受診率が30%程度に上昇するという報告があります。発症から受診までに数年から十数年かかることも珍しくありません。

Q8. どのような治療法がありますか?

A. 主に以下の治療法があります。

認知行動療法(CBT): 社交不安症に対する第一選択の治療法です。否定的な思考パターンの修正、曝露療法(恐れている状況に段階的に慣れていく)、不安管理のスキル習得などを行います。

薬物療法: β遮断薬(動悸や震えなどの身体症状を軽減)やSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などが使用されます。パフォーマンス不安では、特にβ遮断薬が効果を示しやすいという特徴があります。

Q9. β遮断薬とはどのような薬ですか?

A. β遮断薬は、本来は高血圧や不整脈などの心臓疾患の治療に使用される薬ですが、パフォーマンス不安に対しても使用されることがあります。

アドレナリンの作用を抑えることで、心拍数の低下、震えの軽減、発汗の抑制などの効果があります。心理的な不安そのものには作用せず、主に身体症状を和らげるため、パフォーマンスの30分〜1時間前に頓服として服用することが多いです。

喘息や糖尿病など、使用できない場合もあるため、医師の判断が必要です。

Q10. 認知行動療法とはどのような治療ですか?

A. 認知行動療法(CBT)は、否定的な思考パターンや回避行動を変えていく心理療法です。社交不安症に対して最も効果が実証されている治療法の一つです。

Q11. 薬物療法と心理療法、どちらを選ぶべきですか?

A. 一概にどちらが良いとは言えず、症状の程度や患者さんの希望によって異なります。

英国のNICEガイドラインでは、成人の社交不安症に対して認知行動療法を第一選択として推奨しています。ただし、日本では体系的な精神療法を行える医療機関が限られているため、初期治療として薬物療法が使用されることも多いのが現状です。

中等度から重度の場合は、認知行動療法と薬物療法の併用が検討されることもあります。まずは医師と相談し、一人ひとりの状況に応じた治療計画を立てることが大切です。

Q12. 治療を受けずに放置するとどうなりますか?

A. パフォーマンス不安は全般型と比較すると軽度であることが多いですが、適切な治療を受けないと以下のような影響が出る可能性があります。

  • パフォーマンスが求められる状況を避けるようになる
  • 仕事でのプレゼンテーションや会議での発言を回避する
  • キャリアの選択肢が限られる
  • 自信の低下
  • 回避行動の習慣化
  • 抑うつ症状の併発

社交不安症全体では、自然に症状が改善する割合は30〜40%程度と報告されており、多くの場合、治療を受けないと症状が持続する可能性があります。

Q13. どのような時に医療機関を受診すべきですか?

A. 以下のような状況であれば、専門医への相談をお勧めします。

  • パフォーマンスへの不安が数カ月以上持続している
  • 不安のために重要な機会を避けている
  • 日常生活や仕事に支障が出ている
  • 自分でも「過剰だ」と感じるほどの不安がある
  • パフォーマンスの前後に強い苦痛を感じる
  • 抑うつ症状が併発している
  • アルコールや薬物で不安を和らげようとしている

「ただのあがり症」と片付けず、生活に支障が出ている場合は、専門医にご相談ください。発症から何年も経ってから受診される方も多いですが、早めの相談が望ましいです。

Q14. 他の精神疾患と併発することはありますか?

A. パフォーマンス不安は、全般型の社交不安症と比較すると、他の精神疾患との併存は少ない傾向にあります。

ただし、社交不安症全体では、うつ病、他の不安症、物質使用障害(アルコール依存症など)などを併発することがあります。社交不安症が先に発症し、その後に他の疾患が続発することが多いとされています。

併存疾患がある場合は、それぞれに対する適切な治療が必要になります。

Q15. 日常生活でできる対処法はありますか?

A. 専門的な治療に加えて、日常生活でできる対処法もあります。

  • 適度な運動
  • バランスの良い食事(適宜サプリなどを追加)
  • 十分な睡眠
  • カフェインやアルコールの摂取を控える

ただし、これらは補助的な方法であり、症状が強い場合や生活に支障が出ている場合は、専門医への相談が望ましいです。

まとめ

パフォーマンス不安は、人前での発表や演技など特定の状況に限定して強い不安を感じる疾患です。全般的な社交不安症と比較すると症状は軽度であることが多いものの、仕事や学業において重要な場面を避けることになり、キャリアや自己実現に影響を及ぼす可能性があります。

発症年齢が若く「自分の性格」と捉えられやすいため、医療機関を受診するまでに長期間を要することが多いという特徴があります。しかし、認知行動療法やβ遮断薬などの効果的な治療選択肢があり、適切な治療により多くの方で症状の改善が期待できます。

「ただのあがり症」と片付けず、日常生活に支障が出ている場合は、お気軽にご相談ください。一人ひとりの状況に応じた適切な治療法を一緒に考えていくことができます。

参考文献

1) American Psychiatric Association (2013). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th Edition (DSM-5).

2) Fuentes-Rodriguez, G., Garcia-Lopez, L. J., & Garcia-Trujillo, V. (2018). Exploring the role of the DSM-5 performance-only specifier in adolescents with social anxiety disorder. Psychiatry Research, 270, 1033-1038.

3) Aune, T., Nordahl, H. M., & Beidel, D. C. (2023). Is There any Difference Between DSM-5 performance-only Specifier and Social Anxiety Disorder? Results from the Young-HUNT3 Study. Journal of Psychopathology and Behavioral Assessment.

4) 朝倉聡(2015). 社交不安症の診断と評価. 不安症研究, 7(1), 4-17.

5) 厚生労働省. 社交不安障害(社交不安症)の認知行動療法マニュアル(治療者用).

江戸川橋ラーナメンタルクリニック

院長 近野祐介


作成日: 2025年11月22日
更新日: 2025年11月22日

江戸川橋ラーナメンタルクリニック 江戸川橋ラーナメンタルクリニック