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社交不安症(社交不安障害)

この記事のポイント

社交不安症は、単なる「緊張しやすい性格」や「内気な性格」とは異なる、治療法のある精神疾患です。
症状は精神的なものだけでなく、動悸、発汗、震えといった身体的なものも伴い、日常生活に大きな影響を与えます。
薬物療法や精神療法によって、症状を軽減させることができる可能性があります。
Social Anxiety Disorder(SAD)は社交不安障害や社会不安障害と訳されていましたが、最近は社交不安症と訳されています。ここでは社交不安症とし、見出しでは社交不安症(社交不安障害)とします。

社交不安症(社交不安障害)とは

社交不安症は、以前は社交不安障害、社会不安障害と呼ばれていました。また、一般的にはあがり症と呼ばれたりもします。その中心的な特徴は、他者から注目を浴びる可能性のある社交場面に対して、著しい恐怖や不安を感じることです。例えば、人前でスピーチをする、会議で発言する、知らない人と雑談する、権威のある人と話す、といった状況が典型です。
この疾患に悩む方は、「自分が恥をかくようなことをしてしまうのではないか」「不安になっている様子を他人に見抜かれて、否定的に評価されるのではないか」という強い恐れを抱いています。その結果、そうした場面を必死で避けようとしたり、耐え難いほどの苦痛を感じながら何とかやり過ごしたりします。

社交不安症の主な症状と特徴

社交不安症の症状は、こころ(精神症状)、からだ(身体症状)、そして行動(回避行動)の3つの側面に現れます。これらが相互に影響し合い、悪循環を生み出してしまうのが特徴です。

精神症状:思考と感情の変化

社交不安症の方が経験する精神的な症状は、単なる緊張を超えて、日常生活に大きな影響を与えるものです。人前に出る前から「失敗したらどうしよう」「みんなに笑われるかもしれない」「変に思われたらどうしよう」といった否定的な考えが頭を支配し、その不安が雪だるま式に大きくなっていきます。
実際の社交場面では、「みんなが自分を見ている」「自分の緊張が周りにバレている」という過度な自己意識に苦しむことがあります。このような認知の歪みにより、実際には誰も気にしていないような些細なことでも、大きな恥だと感じてしまうのです。
また、社交場面が終わった後も、「あの時こう言えばよかった」「きっと変に思われた」と、自分の行動を繰り返し反省し、後悔や自己嫌悪に陥ることがあります。このような反芻思考により、次の社交場面への不安がさらに強まるという悪循環に陥ることもあります。

身体症状:からだに現れるサイン

社交不安症では、不安や恐怖が身体的な症状として現れることが多くあります。人前で話す時や注目される場面で、顔が赤くなる、手足が震える、声が震える、大量の汗をかく、心臓がドキドキする、息苦しくなる、めまいがする、吐き気がするなどの症状が現れます。
特に困るのは、これらの症状が他人に見えてしまうことへの恐怖が、さらに症状を悪化させるという点です。例えば、「手が震えているのを見られたらどうしよう」という不安が、実際に手の震えを強くしてしまうのです。
睡眠への影響も見逃せません。翌日に人前で発表がある前夜に眠れなくなったり、過去の失敗体験を思い出して寝付けなくなったりすることがあります。また、慢性的な緊張状態により、頭痛や肩こり、胃腸の不調などを訴える方も少なくありません。

日常生活への影響

これらのつらい症状を経験しないために、人々は無意識のうちに苦手な状況を避けるようになります。これを「回避行動」と呼びます。回避行動は、短期的には不安から逃れることができます。しかし、長期的に見ると、友人関係を築く機会を失ったり、学業やキャリアで本来の力を発揮できなかったりと、人生の可能性を狭めてしまうことにつながります。「避ければいいだけだから大丈夫」と考えてしまう方もいますが、この回避行動こそが、社交不安症の悪循環を維持し、生活の質(QOL)を低下させる最も大きな要因なのです。

特徴的なタイプ:「パフォーマンス限局型」

社交不安症の中には、恐怖を感じる状況が「人前で何かを行う」場面に限定されるタイプがあります。これを「パフォーマンス限局型」と呼びます。例えば、スピーチ、楽器の演奏、スポーツの試合といった場面では強い症状が現れるものの、雑談や食事といった日常的な対人関係では特に問題を感じないのが特徴です。一般的に「あがり症」と言われてイメージされるものに近いかもしれません。

社交不安症の原因として考えられていること

社交不安症は、いくつかの要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

生物学的要因

脳内の神経伝達物質(セロトニンなど)のバランスの乱れが関係していると考えられています。また、脳の中でも恐怖や不安といった感情を司る「扁桃体(へんとうたい)」という部分が過剰に活動し、それを理性でコントロールする「前頭前野」の働きが相対的に弱まっている可能性が指摘されています。遺伝的な要因、つまり生まれ持った気質も一定の関与があるとされています。

心理的要因

人からどう見られているかを過度に気にする、完璧主義である、自己評価が低い、といった性格傾向や過去に人前で恥ずかしい思いをしたり、笑われたりした経験が発症に関連することがあります。

環境的・社会的要因

いじめや虐待、厳しい叱責を受けた経験、または親が過度に内気であったり、社会的な評価を気にしすぎたりする環境で育ったことなどが影響する可能性も考えられています。

これらの要因が、思春期から青年期といった、他者の目を意識しやすくなる時期に重なることで、発症に至るケースが多いとされています。

社交不安症はどのくらいの人が経験するのか

有病率(ある集団の中で、その病気を持っている人の割合)

社交不安症の有病率は、国や調査対象、診断基準によって異なりますが、最も一般的な不安症の一つとされています。

世界の状況

世界の多くの地域における12ヶ月の有病率は0.5%から2.0%程度です。欧州での中央値は2.3%と報告されています。

米国の状況

米国では特に有病率が高く、成人の12ヶ月有病率は約7.1%、生涯有病率(一生のうちに一度でも診断基準を満たした人の割合)は約12.1%にのぼります。

日本の状況

日本で行われたWHO世界精神保健調査によると、社交不安症の生涯有病率は1.0%、12ヶ月有病率は0.6%と報告されており、欧米と比較すると低い傾向にありますが、決して稀な疾患ではありません。

好発年齢

社交不安症は、多くの場合、子ども時代や思春期に発症します。

発症のピーク

発症年齢の中央値は13歳頃とされ、75%の人が8歳から15歳の間に発症するといわれています。

早期発症

思春期より前に発症することも珍しくなく、25歳を過ぎてから初めて発症するケースは稀です。多くの場合、内気や人見知りといった性格的特徴と見過ごされ、診断が遅れる原因にもなります。

性差

有病率には性別による差が見られますが、医療機関を受診する人の男女比は異なります。

一般人口における性差

多くの疫学調査で、有病率は男性よりも女性の方が高いと報告されています(女性の有病率は男性の1.5倍から2倍程度)。米国の調査では、成人の12ヶ月有病率は女性が8.0%、男性が6.1%でした。

臨床場面における性差

一方で、臨床場面で実際に治療を受けるために医療機関を訪れる患者の男女比は同等か、むしろ男性がわずかに多いという報告もあります。これは、男性の方が社会的役割からくるプレッシャーにより、困難を強く感じやすいことなどが背景にあると考えられます。

併存疾患

社交不安症の患者は、他の精神疾患を併存していることが非常に多いのが特徴です。ある報告では、80~90%の患者が何らかの併存疾患を持つとされています。

主な併存疾患

他の不安症

パニック症や全般性不安症など、他の不安症を併発しているケースが多く見られます。

うつ症状

社交不安による慢性的なストレスや孤独感から、二次的にうつ症状が見られるようになることがあります。

アルコール使用障害

不安を紛らわすためにアルコールに頼り、アルコール使用障害に至るケースも少なくありません。

発達障害

近年、自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障害の特性が背景にあり、対人関係の困難さから二次的に社交不安の症状を呈するケースも注目されています。

初診までの期間

社交不安症は、症状を自覚してから初めて医療機関を受診するまでの期間が、他の精神疾患と比較して非常に長い傾向があることが指摘されています。

受診までの長い道のり

米国不安抑うつ協会(ADAA)が2007年に実施した調査によると、社交不安症の人の36%が、助けを求めるまでに10年以上症状を経験していたと報告しています。
この背景には、「恥ずかしがり屋」「内気」といった性格の問題として片付けてしまい、治療対象の病気であるという認識が本人や周囲にないことが大きな要因として挙げられます。
また、症状そのものが「人と会って話すこと」への恐怖であるため、医療機関に相談に行くという行為自体が高いハードルとなることも、受診を遅らせる一因です。
治療を受けない場合、症状が数年から数十年続くことも珍しくなく、その間に二次的な問題が悪化するリスクも高まります。日常生活や社会生活における支障が長期間続いている場合は、早期に専門機関に相談することが重要です。

社交不安症の診断

「もしかしたら社交不安症かもしれない」と感じたとき、正確な診断を受けることは、適切な治療やサポートにつながるための第一歩です。

社交不安症(社交不安障害)診断基準

精神疾患の診断には、国際的に用いられている診断基準があります。代表的なものに、アメリカ精神医学会が作成した「DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版)」や、世界保健機関(WHO)が作成した「ICD-11(国際疾病分類 第11版)」があります。ここでは、DSM-5-TRにおける社交不安症の診断基準の概要を簡潔に紹介します。

DSM-5-TRにおける社交不安症の診断基準(要約)

  • A. 他の人の注目を浴びる可能性のある1つ以上の社交場面に対する著しい恐怖または不安。例として、雑談、初対面の人と会うこと、人前で食べたり飲んだりすること、人前で話をすることなどが含まれる。
    • 注:子どもの場合、その不安は成人との交流だけでなく、同年代の仲間との間でも生じなければならない。
  • B. その人は、自分が恥をかいたり、恥ずかしい思いをするような形で行動したり、不安症状を見せたりすることを恐れており、それが否定的な評価を受けることになると考えている。
  • C. その社交的な状況はほとんど常に恐怖または不安を引き起こす。
    • 注:子どもの場合、その恐怖または不安は、泣く、かんしゃくを起こす、凍りつく、まとわりつく、縮みあがる、または社交場面で話せないという形で表現されることがある。
  • D. その社交的な状況は積極的に避けられるか、または強い恐怖または不安を感じながら耐え忍ばれる。
  • E. その恐怖または不安は、その社交的な状況がもたらす現実の危険や、社会文化的な背景に釣り合わない。
  • F. その恐怖、不安、または回避は持続的であり、典型的には6ヶ月以上続く。
  • G. その恐怖、不安、または回避は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
  • H. その恐怖、不安、または回避は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。
  • I. その恐怖、不安、または回避は、パニック障害、醜形恐怖症、自閉スペクトラム症といった他の精神疾患の症状ではうまく説明されない。
  • J. 他の医学的疾患(例:パーキンソン病、肥満、熱傷や外傷による醜形)が存在する場合、その恐怖、不安、または回避は、明らかに医学的疾患とは無関係であるか、または過剰である。

特定せよ

パフォーマンス限局型

恐怖が、話すことまたは行為することといった人前での行為に限局される場合。

これはあくまで診断基準の概要であり、実際の診断は医師がこれらの基準を参考にしながら、具体的な悩みや症状、生活への影響を聞き取り、個々の状況を総合的に判断して行います。

社交不安症(社交不安障害)の治療法

治療の柱となるのは、「薬物療法」と「精神療法」です。多くの場合、これらを組み合わせることで、より高い効果が期待できます。

薬物療法

薬物療法では、主に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と呼ばれる抗うつ薬が使用されます。これらの薬は、脳内の神経伝達物質のバランスを整えることで、不安症状を軽減します。効果が現れるまでに数週間かかることが多いため、医師の指示に従って継続的に服用することが大切です。
副作用として、服用開始時に軽い吐き気や眠気などが現れることがありますが、多くの場合、時間とともに軽減していきます。また、それぞれの薬に特有の副作用の可能性はありますので、医師が効果と副作用のバランスを慎重に見ながら、ご本人に合った薬と量を調整していきます。薬物療法は、次に述べる精神療法と組み合わせることで、より高い治療効果が期待できます。

精神療法・カウンセリング

認知行動療法(CBT)は、社交不安症に対して最も効果が実証されている精神療法です。この療法では、不安を引き起こす認知(考え方)のパターンを見直し、より現実的で適応的な考え方を身につけていきます。
例えば、「みんなが自分を見て笑っている」という考えを、「実際には誰も気にしていないかもしれない」「仮に気づかれても、それほど大きな問題ではない」といった、より現実的な考えに修正していきます。また、段階的に恐怖場面に慣れていく曝露療法も効果的です。

生活改善とセルフケア

治療と並行して、日常生活の中でできるセルフケアも重要です。規則正しい生活リズムを保ち、十分な睡眠をとることは、不安症状の軽減に役立ちます。また、適度な運動は、ストレス解消と気分の改善に効果的です。
リラクゼーション法(呼吸法、筋弛緩法、マインドフルネスなど)を身につけることで、不安が高まった時に自分で対処できるようになります。カフェインやアルコールの過剰摂取は不安を悪化させることがあるため、適量を心がけることも大切です。
治療期間は個人差が大きく、数ヶ月で改善する方もいれば、年単位の治療が必要な方もいます。大切なのは、焦らず、自分のペースで治療を続けることです。

よくある質問(Q&A)

「あがり症」と社交不安症は、重なる部分が大きいです。一般的に「あがり症」と呼ばれる状態の中には、社交不安症の診断基準を満たすものも多く含まれています。当院では「あがり症の治療」としてご相談をお受けしていますが、これは社交不安症の治療と同じ枠組みで行っています。「あがり症だから病院に行くほどではない」と思わず、生活に困っているのであれば、遠慮なくご相談ください。
社交不安症は単なる性格の問題ではありません。内気な気質や繊細さが発症に関係することはありますが、それだけでは説明できない部分があり、治療によって症状が和らぐことが多いのです。長年「自分の性格だから」と思って我慢してきた方が、治療を受けて「もっと早く相談すればよかった」とおっしゃることは珍しくありません。
確かに、人前での緊張は誰にでもあるものです。社交不安症との違いは、その恐怖や不安の「程度」「持続期間」「生活への影響」にあります。具体的には、恐怖が状況に対して不釣り合いに強い、数ヶ月以上続いている、仕事・学業・人間関係に明らかな支障が出ている、といった場合に社交不安症が疑われます。「避ければ済む」と思っていても、そのために人生の選択肢が狭まっていれば、それは十分に治療の対象となります。
治療を受けなくても自然に症状が軽減することはありますが、多くの場合、社交不安症は慢性的な経過をたどります。特に、回避行動が習慣化していると、自然回復は難しくなります。早期に適切な治療を受けることで、症状の改善だけでなく、二次的なうつ症状やアルコール依存などの予防にもつながります。
多くの方で、治療によって症状が和らぎ、日常生活への支障がかなり軽減されます。ただ、「完全に緊張しなくなる」というよりは、「緊張しても対処できる」「以前ほど苦しくない」という状態を目指すことが多いです。ストレスが重なった時に症状が再燃することもありますので、治療で身につけた対処法を活用しながら、長期的に付き合っていくという考え方が現実的かもしれません。
社交不安症の治療でよく使われるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、効果が現れるまでに通常2〜4週間、十分な効果を実感するまでに数ヶ月かかることがあります。服用開始直後に効果を感じられなくても、焦らずに継続することが大切です。一方で、頓服として使用されるベンゾジアゼピン系薬やβ遮断薬は比較的速やかに効果が現れます。
SSRIには身体的な依存性はありません。ただし、急に服用を中止すると離脱症状が出ることがあるため、減薬は医師の指導のもとで徐々に行います。治療期間については、個人差がかなり大きくなります。比較的短期間で治療を終了し減薬できる方もいれば、何年かかけて治療を行う方もいらっしゃいます。人によって条件や目標が異なりますので、焦らず、ご自身のペースで治療を続けていくことが大切です。ベンゾジアゼピン系薬については依存性の懸念があるため、長期使用は避け、必要な場面での頓服使用が推奨されます。
認知行動療法は、不安を引き起こしている「考え方のパターン(認知)」と「行動パターン」の両方に働きかける精神療法です。例えば、「みんなが自分を批判的に見ている」という考えを検証し、より現実的な見方を身につけていきます。また、避けていた場面に段階的に向き合う「曝露療法」を行うことで、「思ったほど怖くない」という体験を積み重ねていきます。現在のところ、社交不安症に対して最も効果が実証されている精神療法です。
どちらが優れているということはなく、それぞれに長所があります。薬物療法は比較的手軽に始められ、症状を和らげる効果があります。認知行動療法は時間と労力がかかりますが、治療終了後も効果が持続しやすいとされています。実際には、両者を併用することが多いです。ご本人の希望や状況に応じて、最適な治療法を一緒に検討していきます。
初診では、どのような場面で不安を感じるか、いつ頃からその症状があるか、日常生活や仕事にどのような影響があるか、といったことをお聞きします。また、他の症状(気分の落ち込み、睡眠の問題など)の有無や、これまでの治療歴、身体的な健康状態なども確認します。すべてを整理して話す必要はありません。うまく言葉にできなくても、困っていることをそのままお伝えいただければ大丈夫です。
医療機関には守秘義務があり、ご本人の同意なく職場や学校に情報が伝わることはありません。健康保険を使った場合でも、受診先の医療機関名が職場に通知されることは通常ありません。診断書の提出が必要な場合も、内容についてはご相談の上で対応いたします。プライバシーは守られますので、安心してご相談ください。
社交不安症の方は、うつ病を併発するリスクが高いことが知られています。長期間にわたる不安や回避行動、孤立感が積み重なることで、二次的にうつ症状が現れることがあります。また、社交不安症が先に発症し、その後うつ病を発症するケースが多いとされています。両方の症状がある場合は、それぞれに対する治療を並行して行うことが重要です。
両者は異なる疾患ですが、併発することもあります。社交不安症は「他者からの否定的な評価を恐れる」ことが中心であり、恐怖の対象は社交場面です。一方、パニック症は「予期しないパニック発作」とそれに対する恐怖が中心であり、特定の状況に限定されません。ただし、社交不安症の方が人前で強い不安を感じた際に、パニック発作のような症状(動悸、息苦しさ、震えなど)が起こることはあります。
発達障害と社交不安症は併存することがあります。自閉スペクトラム症(ASD)の方は、対人関係の難しさから二次的に社交不安の症状を呈することがあります。また、ADHD(注意欠如・多動症)の方も社交不安症を併発しやすいことが知られており、研究によっては30〜50%程度の併存率が報告されています。ADHDの方は、不注意による社交場面での失敗体験や、衝動性によるコミュニケーションの困難さなどが背景となり、社交不安を抱えやすい傾向があります。背景に発達障害がある場合は、それを踏まえた治療やサポートを検討する必要があります。
人前で顔が赤くなることへの強い恐怖は「赤面恐怖」と呼ばれ、社交不安症の症状の一つです。赤面すること自体よりも、「赤面を見られて恥ずかしい思いをするのではないか」「変に思われるのではないか」という恐怖が中心にあります。赤面恐怖も、社交不安症の治療と同様に、薬物療法や認知行動療法で改善が期待できます。
電話への苦手意識は、社交不安症の方に見られることがある症状の一つです。電話では相手の表情が見えないため、自分の発言がどう受け取られているか分からない不安や、沈黙への恐怖などが関係していることがあります。ただ、電話への苦手意識には様々な背景があり得ますので、社交不安症かどうかは他の症状も含めて総合的に判断することになります。
いくつかのセルフケアが症状の軽減に役立つことがあります。まず、規則正しい生活リズムと十分な睡眠を心がけてください。適度な運動もストレス軽減に効果的です。また、腹式呼吸やマインドフルネスなどのリラクゼーション法を練習しておくと、不安が高まった時に自分で対処しやすくなります。カフェインやアルコールの過剰摂取は不安を悪化させることがあるため、控えめにすることをお勧めします。ただし、セルフケアだけで改善が難しい場合は、専門家の治療を受けることが重要です。
以下のような状態であれば、一度ご相談いただくことをお勧めします。
人前での不安や恐怖が6ヶ月以上続いている
不安のために、重要な場面や機会を避けている
仕事、学業、人間関係に明らかな支障が出ている
自分でも「この緊張は普通ではない」と感じている
気分の落ち込みや、お酒に頼る傾向が出てきた
特に、社交不安のせいでキャリアに影響が出そうな場合は、ぜひご相談ください。「就職面接が怖くて受けられない」「プレゼンの多い会社や業界を諦めた」「昇進の機会を断った」――このような状況は、治療によって変えられる可能性があります。社交不安症は、治療しないまま放置すると、本来持っている力を発揮できないまま何年も過ごしてしまうことがあります。キャリアの選択肢を狭めてしまう前に、一度ご相談いただければと思います。

社交不安症のまとめ

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。社交不安症について、少しでも理解を深めていただけたでしょうか。
この記事で最もお伝えしたかったのは、あなたが今抱えている苦しみは、「あなたの性格などのせいではなく、社交不安症という治療可能な病気によるものかもしれない」ということです。そして、その苦しみには、効果的な対処法が存在します。
受診をためらう気持ちはよく分かります。「こんなことで病院に行っていいのか」「恥ずかしい」「変だと思われないか」といった不安があるかもしれません。しかし、症状に悩んでいるなら、それは十分に受診の理由になります。それぞれに合った最善の治療法を一緒に考え、安心して治療に取り組めるようサポートします。一人で悩まず、専門家の力を借りて、回復への第一歩を踏み出してみませんか。

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