気分が沈む・やる気が出ない
「気分が沈む」「やる気が出ない」これは誰にでもあることです。しかし、それが何週間も続き、日常生活や仕事に影響を及ぼすようであれば、それは「抑うつ症状」という症状かもしれません。
他にこのような症状は
ありませんか?
「気分が沈む」「やる気が出ない」という症状に加えて、以下のようなお悩みはありませんか?これらの症状は、原因を探していく上で重要な手がかりとなることがあります。心当たりがある場合は、問診や診察時にお伝えください。
- 思考力・集中力の低下: 考えがまとまらない、集中できない、物事を決められない、作業中のミスが増えるなど。
- 自尊心の喪失・罪悪感: 自分には価値がないと感じる、自分を責める気持ちが強い。
- 絶望感・希死念慮: 将来に希望が持てず、死にたい気持ちになったり、自殺を考えることがあります。
- 不安・焦燥感: 落ち着かず、イライラしたり、焦りを感じたりすることがあります。
- 倦怠感・疲労: 体が重だるく、疲れが取れない、すぐに疲れる。
- 睡眠の異常: 寝付けない、夜中に何度も目が覚める、朝早くに目が覚める、寝ても寝た気がしない、一日中眠いなど、睡眠リズムが乱れる。
- 食欲・体重の変化: 食欲がなくなり体重が減る、または過食になり体重が増える。
- 身体の痛み: 頭痛、肩こり、腰痛、めまい、動悸
- その他: 生理不順、口の渇き、胃の不快感、便秘や下痢
抑うつ症状がある=うつ病、というわけではなく、他の精神的な病気や身体の病気、薬の副作用が原因となることもあります。そのため、症状の背景にある原因を正しく見極めることが、効果的な治療への第一歩となります。
抑うつ症状を来す疾患
抑うつ症状は、様々なこころの病気や身体の病気の一つのサインとして現れます。症状や検査結果を踏まえて、抑うつ症状の原因となった疾患を考えていきます。ここでは、抑うつ症状の原因となりやすい疾患と、その特徴、治療法を説明します。
うつ病(大うつ病性障害)
うつ病は、気分が強く落ち込んだり、何事にも興味や喜びを感じられなくなったりする状態が長く続く病気です。日常生活に支障をきたすほどの気分の落ち込み、睡眠障害、食欲不振、疲労感、集中力の低下などの症状が現れることがあります。
うつ病における気分の落ち込みでは、朝に最も強く、夕方にかけて軽くなる「日内変動」が見られることがあります。また、今まで楽しめていたことが楽しめなくなる「興味・喜びの喪失」が見られます。自責感が強く、「自分は価値がない」と感じることも多いです。
治療は抗うつ薬による薬物療法と、認知行動療法などの精神療法を組み合わせて行います。十分な休養も重要になります。
適応反応症(適応障害)
適応反応症も抑うつ症状が見られる病気です。適応反応症では明確なストレス要因(例:職場環境の変化、人間関係のトラブル、転居など)があり、そのストレスに対する反応として抑うつ症状が生じます。
適応反応症の抑うつ症状は、ストレスの原因がはっきりしており、そのストレスに直面してから比較的早期(通常3ヶ月以内)に症状が出現し、また、ストレス因から離れると症状が改善するのが特徴です。
治療は、ストレスの原因となっている環境の調整、精神療法を行い、必要に応じて不安や不眠を和らげる薬を使用します。
双極症(双極性障害, 躁うつ病)
双極性障害は、気分が著しく高揚する「躁状態」と、意欲が低下し気分が落ち込む「うつ状態」という両極端な状態を繰り返す病気です。かつては「躁うつ病」とも呼ばれていました。躁状態では、過度な自信、多弁、睡眠時間の短縮、浪費などの行動が見られることがあります。うつ状態では、抑うつ症状が現れます。これらの気分の波により、日常生活や社会生活に大きな支障をきたすことがあります。
双極症では、抑うつ症状以外に躁症状を伴うこと、また、同じ抑うつ症状でも、眠や過食、体が鉛のように重く感じるなどの非定型的な症状が出やすいと言われています。
不安障害(全般性不安症(全般性不安障害)、パニック症(パニック障害)、社交不安症(社交不安障害)、広場恐怖症など)
漠然とした過剰な心配や不安が長期間(通常6ヶ月以上)続く全般性不安症、状況によらず予期しないタイミングでパニック発作を繰り返し、予期不安を伴うパニック症、人前で注目を浴びる状況や、他人から否定的な評価を受ける可能性のある社交場面に対して、著しい恐怖や不安を感じる社交不安症、特定の逃げ出せない・助けが来られない状況に不安を感じる広場恐怖症、といった不安症でも抑うつ症状が見られることがあります。
これらの過剰な不安や恐怖によって日常生活に支障をきたす疾患に、抑うつ症状を伴う場合は、抑うつ症状よりも、過度な心配や不安感、恐怖感が症状の中心になります。
これらの不安症の治療は、薬物療法(抗うつ薬の一種であるSSRIや抗不安薬など)と精神療法(特に認知行動療法)が有効とされます。リラクセーション法なども併用されます。
月経前症候群(PMS)/月経前不快気分障害(PMDD)
月経前の3〜10日間に起こる精神的・身体的な症状で、月経が始まると軽快または消失します。イライラ、気分の落ち込み、集中力低下、眠気、頭痛、乳房の張り、むくみなど、多様な症状が見られます。 月経前症候群の中でも特に精神症状が重く、日常生活に著しい支障をきたすものを月経前不快気分障害と言います。
月経前症候群/月経前不快気分障害の抑うつ症状は、月経周期に関連して現れる点が特徴で、これにはホルモンバランスの変動が関与していると考えられています。
低用量ピルやSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などが治療に用いられることがあります。
睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が一時的に止まったり(無呼吸)、浅くなったりする(低呼吸)ことを繰り返す病気です。主な症状として、抑うつ症状に加えて、大きないびき、睡眠中の息苦しさ、日中の強い眠気、起床時の頭痛、集中力の低下などが見られます。気道が塞がる閉塞性と、脳からの呼吸指令が途絶える中枢性に大別され、多くは閉塞性です。
抑うつ症状に加えて、いびきや日中の眠気、起床時の頭痛といった症状が見られる場合は、睡眠検査を行い診断します。
治療法は、重症度や原因により、CPAP療法(持続陽圧呼吸療法)、マウスピース、外科手術などがあります。
内分泌疾患
甲状腺機能低下性、甲状腺機能亢進症、クッシング病/症候群、慢性副腎皮質機能低下症、糖尿病といった内分泌疾患でも、抑うつ症状を伴うことがあります。経過や、特徴的な症状などからこれらの疾患が疑われる場合は、血液検査などの検査を行います。
その他の内科疾患
鉄欠乏性貧血、ビタミンB12欠乏症、葉酸欠乏症、神経疾患、悪性腫瘍(がん)、慢性疼痛性疾患(関節リウマチ、線維筋痛症、変形性関節症など)、感染症(慢性C型肝炎、HIV感染症/AIDSなど)、膠原病・自己免疫疾患、腎不全、といった疾患でも抑うつ症状を伴うことがあります。
薬剤
服用している薬剤の副作用として抑うつ症状が現れることがあります。原因薬剤の特定と、可能であれば代替薬への変更を検討します。
物質使用障害による抑うつ
アルコールや薬物の慢性使用により、抑うつ症状が現れます。物質の使用を中止することが治療の前提となります。
まとめ
診察では、問診で、詳しい症状や生活状況、ストレス要因、既往歴、家族歴、今内服している薬剤などを伺っていきます。また、血液検査などを行い、その結果も踏まえて診断し、一人ひとりに合わせた治療法をご提案いたします。
抑うつ症状は誰もが経験しうる症状です。「こんなことで受診していいのか」と悩まれる方も多いですが、日常生活に支障をきたすようになったら、一人で抱え込まずにお気軽にご相談ください。
早期の相談・治療開始が回復への近道です。一人ひとりに合わせた治療法をご提案し、つらい症状を改善して穏やかな日常を取り戻すお手伝いをいたします。