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コラム

あがり症(パフォーマンス限局型社交不安症)とは

 

 

 

1. はじめに

人前で話すのが苦手だったり、発表の際に極度に緊張してしまったり。多くの方に、こうした経験があるのではないでしょうか。

しかし、この緊張や不安が日常生活に大きな支障をきたすほどになると、それは「パフォーマンス限局型社交不安症」という病気の可能性があります。いわゆる「あがり症」の中でも、特定の場面に限定して症状が現れるタイプです。

当院がパフォーマンス限局型社交不安症の治療に力を入れる理由でもお話ししたように、この病気によって本来の力を発揮できずに悩んでいる方は少なくありません。また、それはご本人にとって辛いだけでなく、社会全体にとっても大きな損失に繋がっています。

今回のコラムでは、パフォーマンス限局型社交不安症について、社交不安症との違いにも触れながら説明します。

 

2. 社交不安症とは

  • 社交不安症は、他者から注目・評価される場面で過剰な不安や恐怖を感じる精神疾患です。
  • 不安が「人前で何かを行う」場面に限定される場合、「パフォーマンス限局型」に分類されます。

まずは社交不安症について簡単にお話しします。詳しくは社交不安症をご参照ください。

社交不安症(Social Anxiety Disorder: SAD)は、以前は「社会不安障害」「社交不安障害」とも呼ばれていたもので、一般的には「あがり症」という言葉で知られています。対人恐怖症も似た概念ですが、恐れているのが「相手に迷惑をかけること」である点が、社交不安症とは異なります。社交不安症は、他者から注目されたり、評価されたりする可能性のある社交場面に対して、過剰な不安や恐怖を感じる精神疾患です。

社交場面には以下のようなものがあります:

  • 会議で意見を言う、大勢の前で報告やスピーチをする
  • 人前で電話をかける、あまり親しくない人に電話をする
  • 会食や飲み会、飲食店での食事、パーティーに出席する
  • 誰かを誘う、誘いを断る、交渉する
  • 人に見られながら字を書く
  • 人に姿を見られながら仕事(勉強)する、試験を受ける
  • 人前で演奏や演技を行う
  • 公衆トイレで用を足す

社交不安症の方は、こうした幅広い場面で不安を感じます。(もちろん全てではありません)

一方で「人前で何かを行う」ような場面に限定して不安が強くなる人たちがいます。これが「パフォーマンス限局型社交不安症」です。

 

3. パフォーマンス限局型社交不安症

  • 不安が発表や会議、演奏など、特定の「パフォーマンス場面」に限られるのが特徴です。
  • 社会人や大学生のキャリア、学業、就職活動に深刻な悪影響を及ぼすことがあります。

パフォーマンス限局型社交不安症では、不安を感じるのが「人前で何かを行う」という特定のパフォーマンス場面に限られるのが特徴です。

具体的な例

発表・発言の場面

  • 会議での発言
  • プレゼン
  • 朝礼のスピーチ
  • 授業やゼミでの発表
  • 研究報告
  • 結婚式のスピーチ
  • 面接など

専門的な技能を伴う場面

  • 楽器演奏
  • スポーツ試合
  • 舞台での演技
  • 試験など

社会人への悪影響の例

社会人は、評価やキャリアに直結するパフォーマンスが求められることが多くあります。

昇進・評価への影響

  • プレゼンを避けてしまい、成果を上げるチャンスを逃す
  • 会議で意見があっても発言できず、やる気がない、能力が低い、などと誤解される
  • 昇進の打診を受けても、人前で話す機会が増えることを恐れて辞退してしまう

業務遂行への支障

  • 研修の成果発表が苦痛で、そもそも研修への参加意欲が下がってしまう
  • 得意先への商品説明など、本来なら力を発揮できる場面で過度に緊張し、言葉が出なくなる

影響は業務だけにとどまりません。例えば、スピーチを頼まれることを恐れるあまり、本当は心から祝福したい部下の結婚式への出席をためらってしまう、といったプライベートな場面にも支障をきたすことがあります。

さらに、こうした悩みは個人の性格とは必ずしも一致しません。例えば、普段は社交的で会話の中心になるような人が、いざスピーチという改まった場面になると、強い苦手意識を感じてしまうということがあります。

そのため、周囲からは、まさかあの人がと思われ、人前で話すのが苦手だという悩みをなかなか理解してもらえない、という状況に陥りがちです。

大学生への悪影響の例

大学生は、学業の成果を発表する場面や、将来を左右する就職活動でパフォーマンスが求められます。

学業・単位取得への影響

  • 「発表」が成績評価の大部分を占めるゼミや授業を履修できず、興味のある分野の学習を諦めざるを得ない。
  • 卒業論文の口頭試問(面接形式での試験)で、研究内容をうまく説明できず、本来得られるはずだった評価を得られない可能性がある。

就職活動への深刻な影響

  • グループディスカッションで一切発言できず、協調性や積極性がないと判断されてしまう。
  • 面接で、練習ではうまく話せていた志望動機や自己PRが、本番の極度の緊張で全く言葉にならず、実力や熱意を伝えられないまま不採用が続いてしまう。

このように、パフォーマンス限局型社交不安症は、特定の場面でのみ問題が起きるため、周囲からは「内気な性格」や「準備不足」と誤解されがちです。しかし、本人にとっては能力を発揮する機会を奪い、キャリアや学業の可能性を狭めてしまう深刻な問題となりえます。

 

4. まとめ

今回は「パフォーマンス限局型社交不安症」の特徴と、その影響についてご紹介しました。

この病気は「人前で何かをする」という特定の場面に限定して過度な不安や恐怖を感じるもので、単なる「性格の問題」とは異なります。

  • 社会人であれば、昇進のチャンスを逃したり、正当に評価されなかったりする
  • 学生であれば、学びたい分野を諦めたり、就職活動で実力を発揮できなかったりする

こうした機会損失につながることがあります。

日常生活では問題が目立たないため、本人ですら「治療が必要」と気づきにくいかもしれません。ですが、特定の状況で強い緊張のために力を発揮できないのは「気の持ちよう」ではなく、治療可能な病気です。

パフォーマンス限局型社交不安症は、適切な診断と治療で改善が期待できます。治療を通じて本来の力を十分に発揮し、より充実した学生生活や社会人生活を送ることができます。

当院では、この疾患の診断と治療に力を入れています。専門的な知識に基づき、一人ひとりに合った方法をご提案しますので、どうぞ一人で悩まず、お気軽にご相談ください。

江戸川橋ラーナメンタルクリニック

院長 近野祐介

作成日: 2025年9月23日

更新日: 2025年9月25日

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