パニック症(パニック障害)の症状・原因・治療について
1. はじめに
- ✔パニック症は突然の激しい不安発作(パニック発作)を繰り返す病気
- ✔身体の検査では異常が見つからないことが多い
- ✔薬物療法や認知行動療法で症状が落ち着いていく方が多い
突然、何のきっかけもなく激しい動悸や息苦しさが襲ってくる。「このまま死んでしまうのではないか」という強い恐怖に包まれる。救急車を呼んだけれど、病院に着いた頃には症状が収まり、検査でも異常なしと言われる――。
このような経験をされた方は、実は少なくありません。こうした症状は、パニック症(パニック障害)という病気による「パニック発作」の可能性があります。
パニック症は、身体の検査では異常が見つからないために「気のせい」「精神的に弱いから」と思い込み、長い間一人で悩んでいる方も多い疾患です。この記事では、パニック症の症状、原因、そして治療法についてご説明します。
2. パニック症とは
- ✔繰り返し起こる予期しないパニック発作を特徴とする不安症の一つ
- ✔生涯有病率は約1.7%(国際データ)、20〜30代での発症が多い
パニック症は、繰り返し起こる予期しないパニック発作を特徴とする不安症(不安障害)の一つです。
パニック発作自体は比較的よくある体験で、一生に一度は経験したことがあるという方は少なくありません。ただし、発作が繰り返し起こり、日常生活に支障をきたすようになった状態をパニック症と呼びます。国際的なデータでは、パニック症の生涯有病率は約1.7%と報告されています。
日本での有病率については、欧米と比較してやや低い傾向が報告されていますが、これが実際の有病率の違いを反映しているのか、文化的な要因で受診や報告が異なるためなのかは、議論が続いています。発症は20〜30代に多く、男性より女性にやや多いとされています。
3. パニック発作の症状
- ✔複数の身体症状・精神症状が重なって突然現れ、数分でピークに達するのが特徴
- ✔症状は「気のせい」ではなく、自律神経系の実際の反応
パニック発作では、激しい動悸や息苦しさ、胸の痛み、めまいなど、身体のさまざまな症状が突然現れます。同時に、「死んでしまうのではないか」「自分がどうにかなってしまうのではないか」という強い恐怖を伴うことも特徴です。
具体的には、以下のような症状が挙げられます。
- ✔動悸、心拍数の増加
- ✔発汗
- ✔身体の震え
- ✔息切れ、窒息しそうな感覚
- ✔胸の痛みや不快感
- ✔吐き気やお腹の不快感
- ✔めまい、ふらつき
- ✔寒気またはほてり
- ✔しびれやうずき
- ✔現実感がなくなる感覚(離人感)
- ✔死への恐怖、自分がどうにかなってしまうという恐怖
こうした症状が重なって突然現れ、数分でピークに達するのがパニック発作の特徴です。発作は多くの場合しばらくすると自然に収まりますが、その最中は非常に強い苦痛を伴います。
パニック発作の身体症状は「気のせい」ではありません。自律神経系が実際に過剰に活性化しており、動悸や発汗などの症状は本当に起きています。ただし、パニック発作そのものが命に関わることはありません。
4. パニック症の3つの特徴
- ✔パニック発作の繰り返し、予期不安、回避行動が三大特徴
- ✔回避行動が進むと広場恐怖症を伴うこともある
パニック症は、パニック発作が起きるだけでなく、以下の3つの要素が組み合わさって生活に支障をきたすのが特徴です。
① パニック発作の繰り返し
パニック発作が予期せず繰り返し起こります。「予期しない」というのが重要なポイントで、特定のきっかけがなくても発作が起きます。リラックスしている時や、睡眠中に発作が起きることもあります。
② 予期不安
「また発作が起きるのではないか」「次はもっとひどいかもしれない」「発作で心臓発作を起こすのではないか」という持続的な不安を「予期不安」と呼びます。発作がない時間も予期不安は続き、日常生活を大きく圧迫します。パニック発作そのものより、この予期不安の方がつらいと感じる方もいます。
③ 回避行動
発作が起きた場所や、「発作が起きても逃げられない」と感じる場所を避けるようになることがあります。電車に乗れなくなる、人混みを避ける、一人で外出できなくなる、といった変化が見られます。こうした回避行動が進むと、広場恐怖症(アゴラフォビア)を伴うようになることもあり、行動範囲が著しく制限されて仕事や日常生活に大きな影響が出ます。
5. パニック症の原因
- ✔生物学的要因と心理的要因が複合的に関与
- ✔性格や意思の問題ではなく、脳や神経系に関わる病気
パニック症の原因は完全には解明されていませんが、複数の要因が関与していると考えられています。
生物学的要因として、脳内の神経伝達物質(特にセロトニンやノルアドレナリン)の機能異常や、扁桃体(恐怖に関連する脳の領域)の過剰反応が関わっていると考えられています。遺伝的な要因も指摘されており、家族にパニック症の方がいる場合は発症リスクが高まるとされています。
心理的要因として、ストレスの多い生活環境や、身体の感覚に対する過敏さが関与することがあります。たとえば「動悸がするのは心臓発作の前兆だ」といった身体感覚の誤った解釈は、パニック発作の維持・悪化に大きな役割を果たしていると考えられています。
パニック症は性格の問題でも、意思でコントロールできるものでもなく、脳や神経系に関わる病気です。
6. パニック症に似た症状を起こす他の疾患
- ✔身体疾患の除外が診断の第一歩
パニック発作と似た症状は、他の身体疾患でも起こることがあります。初めてパニック発作のような症状が出た場合は、まず身体疾患の可能性を確認することが重要です。
鑑別が必要な疾患としては、甲状腺機能亢進症、不整脈、褐色細胞腫、低血糖、てんかんの一部のタイプなどがあります。また、カフェインの過剰摂取や一部の薬剤の副作用でも、パニック発作に似た症状が現れることがあります。
まず身体疾患の可能性を確認し、除外した上でパニック症の診断・治療を進めることが大切です。
7. パニック症の治療
- ✔薬物療法(SSRIが第一選択)と認知行動療法が治療の二本柱
- ✔どちらか単独でも効果が得られることが多く、併用でより症状が落ち着くという報告もある
パニック症の治療には、薬物療法と精神療法(心理療法)があります。いずれも有効性が確立されており、多くのガイドラインでは両者が第一選択として推奨されています。
薬物療法
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が薬物療法の第一選択です。セルトラリン、エスシタロプラムなどが使用されます。効果が現れるまでには通常2〜4週間ほどかかります。服用開始初期に一時的に不安が強まることがあるため、少量から開始して徐々に増量する場合もあります。
SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)も有効で、ベンラファキシンなどが使用されることがあります。
ベンゾジアゼピン系薬は即効性があり、発作時の頓服として有効です。ただし、長期使用による依存性や耐性の問題があるため、複数の治療ガイドラインでは長期使用を推奨していません。治療の中心はSSRIやSNRIとし、ベンゾジアゼピン系薬は必要に応じて補助的に使用するのが現在の一般的な考え方です。
症状が落ち着いた後も、一定期間(一般的に6か月〜1年以上)の継続が再発予防のために重要とされています。減薬・中止は医師と相談の上、慎重に行います。
認知行動療法(CBT)
認知行動療法は、パニック症の治療において最も科学的根拠が蓄積されている精神療法です。パニック発作のメカニズムを理解する心理教育から始まり、「動悸=心臓発作」といった身体感覚への誤った解釈を見直す認知の再構成、発作に似た感覚をあえて安全な環境で体験する内部感覚エクスポージャー、回避している場所や状況に段階的にチャレンジするエクスポージャーなど、体系的なプログラムとして行われます。
薬物療法と認知行動療法はそれぞれ単独でも効果が得られることが多く、併用することで症状がより落ち着くという報告もあります。どの治療法が適しているかは、症状の程度やご本人の希望・生活状況によって異なりますので、主治医とよく相談して決めていくことが大切です。
8. 日常生活での工夫
- ✔治療と並行して、生活習慣の見直しも症状管理に役立つ
カフェインやアルコールの控えめな摂取:カフェインはパニック発作を誘発しやすくすることが知られています。コーヒーやエナジードリンクの摂取量を見直すことも一つの方法です。アルコールも不安症状に影響を与えることがあります。
規則正しい生活リズム:睡眠不足や不規則な生活は不安症状を悪化させやすくなります。規則正しい睡眠と生活リズムを意識することが助けになります。
適度な運動:定期的な有酸素運動が不安症状の軽減に寄与するという報告があります。無理のない範囲で、散歩やジョギングなどを生活に取り入れてみるのも良いかもしれません。
発作時の対処:発作が起きた時は、「この発作は危険ではない、必ず収まる」と自分に言い聞かせ、ゆっくりとした呼吸を心がけることが助けになります。
9. まとめ
パニック症は、決して珍しい病気ではありません。突然のパニック発作は非常に恐ろしい体験ですが、発作そのものが命に関わることはなく、薬物療法や認知行動療法によって症状が落ち着いていく方は多くいます。
「検査では異常がないのに発作が繰り返し起きる」「発作への不安から行動範囲が狭まってきた」「電車や人混みが怖くて避けている」――このような状態でお悩みの方は、精神科・心療内科への受診をお勧めします。
症状には個人差があり、治療法の選択も一人ひとり異なります。当院では、それぞれの症状や生活状況に応じた治療をご一緒に考えてまいります。お気軽にご相談ください。
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江戸川橋ラーナメンタルクリニック
院長 近野祐介
作成日: 2026年2月14日
更新日: 2026年2月14日

